長期優良住宅とは、耐久性や居住性、環境への影響を少なくすることを重視し、長期にわたり良好な状態を維持できるよう設計される住宅のことをいいます。
日本では、住宅の質を向上させるために2009年(平成21年)6月に施行された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づき、一定の基準を満たした住宅が長期優良住宅として認定されます。
この制度は、持続可能な住宅づくりを推進する一方で、購入者にとっても税制優遇や補助金などのメリットがあります。
そこで今回は、長期優良住宅として認められるにはどのような基準があるのか、メリットやデメリットについても詳しく解説します。
長期優良住宅とは?新築物件の認定基準
長期優良住宅として認められるためには、以下の認定項目を満たす必要があります。
劣化対策
劣化対策は、建物が長期間にわたって使用できるように耐久性を確保するための基準で、劣化対策等級(構造躯体等)「等級3」に該当することが求められます。
たとえば、床下の空間に33cm以上の高さを設ける、構造材に防腐・防蟻処理を施すといった対策が必要です。
耐震性
長期優良住宅では、震度6から7程度の大地震に対して倒壊しない、耐震等級3を満たす構造が求められます。
当初は「耐震等級2以上」となっていましたが、2022年10月の法改正によって耐震等級3へと引き上げられました。
耐震等級3は耐震等級1の1.5倍の強度があります。
被災後の修繕や復旧が容易な設計が推奨されています。
省エネルギー性
冷暖房の効率を高めるために、外壁や窓の断熱性能を向上させ、住宅の省エネルギー性能を確保することが必要です。
具体的には、「断熱等性能等級5かつ一次エネルギー消費量等級の等級6」を満たすのもので、断熱材や高性能な窓ガラスを採用し、住宅のエネルギー消費量を削減します。
維持管理・更新の容易性
構造躯体と比べ、劣化しやすい住宅の設備(給排水、ガス、電気など)や内装など、メンテナンスがしやすいような設計になっていることが求められます。
- 維持管理対策等級(専用配管・共用配管)等級3
- 更新対策(共用排水管)等級3
可変性
住居のライフサイクルに合わせて、間取りや部屋の使い方を変更しやすい設計が「可変性」として評価されます。
具体的には躯体天井高さ 2,650mm以上が必要で、壁を容易に取り外したり、将来的に新たな部屋を追加できたりするように計画することが望ましいとされています。
バリアフリー性
将来、歳をとったときに、誰もが住みやすい家であるためにはバリアフリー性も重要です。
年齢を重ねても安心して暮らせるよう、段差の少ない設計や、広めの廊下・玄関などが基準となり、高齢者等配慮対策等級(共用部分)等級3(※一部の基準を除く)が必要です。
居住環境
住まいが立地する周辺環境も評価されます。
たとえば、良好な景観が保たれているか、住環境が快適であるかなどが基準となります。
家が丈夫なだけでなく、その地域の街並みと調和していることも重視されるのです。
なお詳細は、申請先の所管行政庁に確認が必要です。
住戸面積
快適な生活を送るためには、一定の広さが必要です。
- 一戸建ての住宅 床面積の合計75平米以上
- 共同住宅等 床面積の合計40平米以上
(少なくとも1の階の床面積が40平米以上
(階段部分を除く面積))
これにより、狭すぎず、居住者がゆとりを持って生活できる空間が確保されます。
維持保全計画
住宅の耐久性や機能を長期間維持するためには、定期的なメンテナンスや修繕が重要です。
長期優良住宅として認定を受けるためには、以下の設備について、「維持保全計画」を作成する必要があります。
- 住宅の構造耐力上主要な部分
- 住宅の雨水の浸入を防止する部分
- 住宅に設ける給水又は排水のための設備
少なくとも10年に1度は点検が必要です。
災害配慮
日本は地震や台風、洪水などの自然災害が多いため、災害時の安全性についての基準が2022年に新たに追加されました。
地すべり防止区域など危険度の高いエリアに立てると長期優良住宅として認定されないほか、浸水想定区域内で1mの浸水が想定される場合は、地盤の高さを1m以上にするなどの認定基準が設けられました。
長期優良住宅のメリット
長期優良住宅には、性能の高さだけでなく、経済的なメリットもあります。特に、税制優遇や住宅ローンに関する優遇措置が大きな魅力です。
住宅ローンの金利が低くなる
長期優良住宅を建てる際、多くの金融機関で「フラット35」などの住宅ローンにおける金利優遇が適用されます。「フラット35S」と呼ばれる金利優遇プランでは、当初の一定期間、通常よりも低い金利が適用される仕組みがあります。
<金利引き下げの例>
- フラット35 S(ZEH):0.75%
- フラット35 S(金利Aプラン):0.5%
- フラット35 S(金利Bプラン):0.25%
住宅ローン控除が受けられる
長期優良住宅を購入すると、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の優遇措置を受けることができます。
一般的な省エネ住宅では控除対象の借入残高は4,000万円までですが、長期優良住宅では5,000万円まで拡大されます。
高額な住宅ローンを組んだ場合でも、より多くの税額控除が受けられるため、返済負担を軽減できるでしょう。
固定資産税の減税措置の適用期間が長くなる
長期優良住宅には、固定資産税の減税措置が通常の住宅よりも長期間適用されます
- 戸建て:(一般住宅)3年間→5年間
- マンション:(一般住宅)5年間→7年間
特に固定資産税は毎年発生するため、この減税措置が長期間にわたることは大きなメリットとなります。
登録免許税や不動産取得税も優遇
長期優良住宅は、購入時に発生する税金である登録免許税や不動産取得税においても優遇措置があります。
- 登録免許税:(一般住宅)0.15%→0.1%
- 不動産取得税の控除額:(一般住宅)1,200万円→1,300万円わたることは大きなメリットとなります。
光熱費が抑えられる
また、長期優良住宅の高性能な断熱性や省エネルギー性によって、夏は涼しく、冬は暖かいので、毎月の光熱費も節約できるでしょう。
快適に暮らせるだけでなく、経済的なメリットがさらに広がります。
長期優良住宅のデメリット
長期優良住宅には多くのメリットがありますが、一方で認定を受ける際や建設時に発生するデメリットも存在します。以下の3つの主なデメリットについて詳しく説明します。
認定を受けるための手間がかかる
長期優良住宅の認定を受けるためには、着工前に申請を行わなければなりません。
住宅設計の段階から認定基準を満たす詳細な計画や書類の提出が必要です。
具体的には、以下のようなプロセスが必要です。
・設計段階での細かな基準の確認
・必要な書類の作成や申請手続き
・各自治体での審査と承認を得るための時間
この過程で設計事務所や建築会社と連携して、基準を満たすための打ち合わせや書類作成が必要となり、着工までに時間がかかります。
また、認定基準に沿った調整が必要なため、標準的な家を建てるよりも労力がかかります。
認定手数料もかかる
長期優良住宅の認定を受けるためには、認定にかかる手数料が発生します。
この手数料は自治体によって異なりますが、設計審査や現地調査などの費用として数万円から20万円程度が必要です。
認定手数料自体は5〜6万円が目安ですが、 現地調査や設計図の作成の費用等も含め、総額で20万円以上はかかるでしょう。
これらの費用は住宅の設計内容や建設地によって変動するため、事前にどのくらいの手数料が必要になるかを確認しておく必要があります。
設備のアップグレード費用が必要になる場合がある
長期優良住宅は、その認定基準をクリアするために住宅の設備や材料をアップグレードしなければならないことがあり、建設コストが増加する可能性があります。
たとえば、以下のような費用が追加されます。
- 断熱性能の高い窓やドアの導入
- 高性能な換気システムや給湯器の設置
- 耐震性能を向上させるための構造材の追加や強化
特に、省エネルギー性能や耐久性を確保するために、通常よりも高価な素材や工法を採用する必要があるため、コストが大幅に増えることがあります。
ただし、これらの初期投資は将来的な光熱費やメンテナンス費用の削減につながる可能性があるため、一概にデメリットとはいえないでしょう。
長期優良住宅を選ぶ際のポイントと注意点
長期優良住宅は、手続きも複雑ですし、建築コストもかかりますから、業者選びが非常に重要です。
長期優良住宅の建築実績がある、信頼できる工務店に依頼すること
長期優良住宅の認定基準は通常の住宅よりも厳しいため、基準に沿った住宅を適切に建築できる工務店や建築会社を選ぶことが非常に重要です。
建築の経験が豊富で、長期優良住宅に関する知識や実績を持つ業者であれば、認定基準を満たすための設計や施工をスムーズに進めることができます。
ポイントとして、以下を確認するとよいでしょう。
- 長期優良住宅の施工実績:過去にどのくらいの数の長期優良住宅を手がけたか
- 技術力と信頼性:工務店や建築会社が耐震性、省エネルギー性、劣化対策などの専門知識を持っているかどうか
- サポート体制:設計から認定申請、施工、アフターサービスまで一貫して対応してくれるかどうか
信頼できる工務店を選ぶことで、施工の品質が確保されるだけでなく、認定手続きがスムーズに進み、無駄な時間やコストを避けられます。
定期的なメンテナンスは専門家に依頼する
長期優良住宅は、長期間にわたり良好な状態を保つことが求められていますが、それを実現するためには定期的なメンテナンスが必要です。
- 外壁や屋根の劣化状況:外部の気象条件にさらされる部分は劣化が進みやすいため、専門業者による点検が必要
- 給排水設備や配管:これらの設備が老朽化すると修繕費用が大きくなるため、定期的な点検と早期の対応が重要
- 断熱材や窓の性能維持:住宅の省エネルギー性能を保つために、断熱材や窓ガラスの性能も定期的にチェックする必要がある
自己点検だけでは気づけない部分や、専門的な修繕が必要な箇所は、必ず専門家に依頼するようにしましょう。
定期的なメンテナンスを怠ると、長期的な修繕費用がかさむだけでなく、住宅の性能が低下し、資産価値が下がるリスクがあります。
各種控除を受けるために必ず確定申告をすること
長期優良住宅を購入すると、住宅ローン控除や固定資産税の減税など、さまざまな税制優遇が受けられますが、そのためには確定申告が必須です。
特に住宅ローン控除は、年末調整では適用されないため、初年度に必ず確定申告を行う必要があります。
また、登録免許税や不動産取得税の優遇措置も適用されるため、これらの手続きも忘れずに行いましょう。
まとめ
長期優良住宅の認定基準やメリット・デメリットについて解説しました。
長きにわたって快適に暮らせる住宅のことであり、気密性・断熱性が高く光熱費が削減できるほか、税制優遇など経済的なメリットも大きいです。
ただし、着工前に申請を行わなければならず、高性能な取材を使用することで建築コストが上がる可能性もあります。 納得のいく住宅を建てるためには、長期優良住宅の建築経験が豊富で、信頼できる工務店を選ぶことが非常に重要です。